ガシャポン彼女
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「殺す以外に方法はないのか?」

「ないでしょうね。ともかく、トキはそう言っている」

「トキ?」

「あー、あなたはまだだったっけ? あの世界に二度目に送り込まれる時、頭の中で声を聞くはず。そいつがそう言っているの。ここから帰還できる人間は、殺人を犯した者の中からきっかり十名だけ、それ以外は無作為に消去する、と」

 そこで、小石はまた嫌な想像を頭で繰り広げてしまった。それならば、十五歳同士で殺し合うということは起きないのだろうか。

「安心して。今のところないわね。そもそも、トキが同士討ちは禁止しているから」

 この頃になると、すでに空は闇色で塗り染められ始めていた。もうじき、校門も閉められる。

「あ、後ね、あの世界では真名を言っちゃいけないよ」

「マナ? 真南夢の愛称か?」

「違うって。本当の名前ってこと。いつどこで誰がそれを聞いているか解らない。それを肝に銘じておいて」

「過去に何かそれでいざこざが?」

「もちろん! あの世界では倒せなくとも、こっちでは銃器、鈍器、刃物で簡単に殺せるでしょ?」

 真南夢の言う通りだ。あの世界では精霊もどきの存在があるため、力に不平等な上下関係が生じる。しかし、現実世界での強さは比較的平等に近い。

「あなたも、さっさと使者を見つけたら?」

「シシャモ?」

「わざとやってるでしょ?」

「今のはわざとだ」

 真南夢の眉が、くいっと上にあげられる。あまり冗談はお気に召さないようである。

「使者ってのは、古臭いものに詰まっているね、大抵。彼、えーっと、あの兎みたいなのを連れている彼は、何からあれを出したの?」

「ライターだったな」

「じゃあ、そのライターはおんぼろ、スクラップ、ぽんこつ、使い物にならないものだったでしょ?」

「随分ひどい物言いだな」

「答えはどうなの?」

「ああ、確かにそうだった」

「でしょ? あなたも、古臭い物でも物色したら?」

 じゃあね、またいつか会いましょう、あの世界に行く前には頭の中で鐘が鳴り響くから、と言って、真南夢は颯爽とした足取りで去っていった。

 

 

「どうして、今日電話してくれなかったの?」

 彼女と電話を始めてからゆうに一時間以上も経過しているのだが、実のところ聞かれている内容は上記のようなものばかりであった。

「だから、それは言っただろ。少し今日は体調が悪かったんだって。頭がぼーっとしててさ」

 小石が返す言葉も、ずっと似たようなものばかりだった。

「でも、でも!」

 内容の変わらぬ会話を数時間に渡って繰り返した後、ようやく彼女の怒りを鎮めることに成功した小石は、その身をベッドに横たえた。

 彼は、彼女の心理をよく知っている。だからこそ、聡美のわがままにしぶしぶながらもたえしのんでいるのだ。

 小石とつき合うまでに、聡美は男に裏切られたことが幾度かあった、とこぼしていた。本人は自分の顔だけを見て、男が言い寄ってきていることに不満を抱いているらしい。
 小作りでほんわかしているあの顔は、確かにそれなりにもてる要素を秘めている。しかしながら、あろうことか聡美はそれを嫌っていた。

「顔ってことは、私の中身はどうだっていいってことなんだよね」

 小石とつき合い始める前に、彼女がそう不満を漏らしていたことがあった。無論、俺に限ってはそんなことない、と主張したものの、彼女がそれを信じてくれているかとなると、はなはだ疑問である。彼女は今でも疑心暗鬼になって、小石の行動を束縛しようとする側面がある。

 聡美の中で広がる不安。

 束縛して裏切られないようにするプラン。

「つまんねえ」

 天井に向かって、彼は呟いた。仰向けのままの彼は起き上がり、時計を見た。まだ十時である。

「そういや、古臭いものを見つけておけ、とあいつは言っていたな」

 東森はライター。真南夢はおそらく鏡。対して、自分にあるものは、と考えて、小石は眉をひそめた。

「これしかねえ」

 ベッドに転がっているもの、それはずたぼろの枕だった。彼が小学校から愛用し続けている物で、相当年季の入っているものだ。

 これからどういった類の使者が出てくるのか。考えてみると、あまり期待はできなさそうだ。ライターが火を噴く使者を産みだしてくれた、となると、枕ならば、得られる能力は睡魔か何かだろう。

「でも、ま……役に立つかもしれないしな」

 肩をすくめてから、小石は本を開けた。豪華客船ティルスディア号を舞台にしたミステリー小説。さして本を読まない彼でも、意外にもはまってしまう面白さを含んでいた。

「これ面白いんだから読んどいて。絶対だよ、てへへへ」

 凄み口調ながら、最後に笑いをつけ足すところが、なんとも聡美らしいといえば聡美らしい。最初は、読まねば読まねば、だったのに、今では楽しみながら読んでしまっている自分がいる。

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