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「過去は消されるものなのか……。現在とは切り離されている。じゃあ、現在への影響は皆無ってわけか? ここで何をしようが、現在の何かに影響が及ぶってことはなし、と?」 だね、と主が短く即答する。 「おっと、ところで飛行機が飛んでいられる二つ目の理由は? 考えられる理由が、まだあんだろ?」 『東森君にとっては珍しく冴えた質問ね。そうね、ここの時間の流れは不安定だからその余波が働いている、とも考えられる。 私のコピーが昨日、ポケベルで教えてくれたけど、その機内には逆巻空間があるのよね。逆巻空間って、時間の流れが乱れているところに発生するの。もしかしたら、そこだけ時間が消費されつくしてなかったのかも。でも、そう考えたら大変なことよ。どれだけの時間がそこに残っているのか解らないけど、使い終わったが最後、飛行機は落ちちゃうから』 うげっ、と東森が汚い声を漏らす。 「うーん、そういった考え方もできるけど、多分大丈夫なはずだ。俺は狭間に来た時、ガソリンスタンドに置いてあった自動車を運転してたけど、五時間以上は乗り回していたから」 『あら、そう? ま、たとえ落ちても、私は新しいコピーを作ればいいんだけど。じゃあね、頑張って。あ、そうそう規則書はどこへなりとも捨てといた方がいいよ』 一方的な会話を最後に、携帯電話は切れた。分身が、それを折り畳んだ。 「ごめんなさい」 また、真南夢が謝る。 「しっかし、お前と、『あの真南夢』とはえらい違いだな」 「ひとまず、規則書を捨ててくれ」 「あいよ」 東森がコクピットから抜けてから、また戻ってきて、 「どこに捨てりゃいい?」 「おっと、その前に……誰かそれと共鳴できそうか? 俺は何も感じないけど」 真南夢も東森も頭を振ったので、じゃあ逆巻空間にでも捨てておけ、の小石の一言で規則書の処分方法が決定された。 「早いとこ捨てておかないと、うっかりここで即死してしまいそうだ」 「うん、東森君が戻ってくるまでは、何も喋らないでおこうよ」 真南夢が提案し、小石は無言で頷いた。 しばらくしてから、東森が帰ってきたものの、逆巻空間がどこか解んねえ、と言う。 「えー、解るでしょ? こっちに来なさいよ」 真南夢が東森の手を引いて、コクピットから消えた。 「後、どれくらいで京都に着くのかな」 思わず独白を漏らすと、テンシュが、ゲホゲホと咳き込みながら煙を吐きだした。 「おいおい、煙なんて吐――」 そこで、小石は口を噤んだ。煙が形となり、京都到着までの時刻を表示しているのだ。それによれば、残り三十分で着くらしい。 「ありがとう」 と小石が言うと、テンシュがまたも口から排煙する。 京都のどこに降りるか指定せよ 「え? 京都に空港はないよな。俺が知っているもので、なおかつ京都に近い空港といえば、大阪国際空港くらいしか解らないけど」 テンシュが煙を吐く。 行き先:大阪国際空港 「おいおい、それじゃあ、またそっから電車か何かで移動しなきゃならないってか? しかも今日は時間停滞日だから、乗り物は基本的に動かないだろ」 小石は文句を言ったが、テンシュはうんともすんとも言わなかった。行き先は大阪国際空港に決定したらしい。 「お待たせ。ちゃんと捨ててきたから、もう死ぬことはないよ」 真南夢が、さっと入ってきた。後から、東森が頭を掻きながら入ってくる。 「なあ、後何時間以内に指定区域に入らなきゃならねえんだ?」 真南夢が携帯電話を開けて、 「後、三十分ちょっとみたい」 もうそれだけの時間を使ってしまったのか。 「そういや、お前、自動操縦に切り替えられないのか」 小石がもこもこした毛を突くと、テンシュは煙によって文字を形成した。 自動操縦に切り替える 注意:離着陸時には手動に切り替える ふう、と軽い溜息を吐いてから、小石は操縦の束縛から解放された快感にしばらく浸っていた。が、すぐにそのような時間すら惜しいことを思いだし、着陸場所が京都付近にはないことを二人に告げた。 問題はどうやって京都に降りるか、だ。パラシュートというのも考えられると東森が言うと、真南夢は即座に反論した。 地上から誰かが、自分達を狙い撃つ。 弾丸が迫りくる。 よって、パラシュート案はあえなく却下された。 次の案は、どこか広い場所に降り立とうというものだった。しかしながら、誰一人として飛行機の離陸に要する場所の大きさを知らなかった。危険は冒せない。 「何か感じないか?」 真南夢と東森が、ああだこうだ、と案を出し合っているのを遮って、小石が言う。 「いいや」
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