ガシャポン彼女
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 三人は脱出口について、あれやこれやと論争した。

 今日は時間進行日、すなわち未来という仮定が正しいのならば、過去に戻るような使者を使えば、現在に戻ることができるはずだ、と東森が主張した。

「そうかもしれないけど、それで戻っても、またこっちに引き戻されるだろ? あのトキって奴に」

「そうか……。また、不気味な鐘を聞いて、狭間へご来訪しちゃうってことになるのか」

「たとえそうでも、来訪したらすぐ戻るってことをすれば、実質的には殺し合いを避けられる、ってことになるよね」

「ああ……。けど、それじゃあ今後の犠牲者を防ぐことができない。俺達が助かったとしても、まだまだトキはここに人を取り込むだろう。もしかしたら、助かった後も俺達が狭間にまた招かれることだってありうるだろ?」

「そうだな。俺達だけ助かるってのも後味悪いぜ。ここはちょっくら、トキって野郎を締め上げるしかねえのかな」

「無理だよお。トキなんて一体どこにいるのか全然解らないよ」

 小石は、冷静に分析してみた。そもそも狭間とはどうしてあるのか。トキとは一体誰なのか。トキの目的はなんなのか。三十五歳と十五歳による殺し合いを強制して、なんの利益があるのか。解らないことばかりだ。

「トキは、どうして私達を選んだのかな?」

 遠慮がちに真南夢が挙手する。

「選ばれた、か。俺達にある共通点といえば、十五歳、ってことだけだろ?」

 東森は無頓着、ぶっきらぼう、鈍感、天然。

 真南夢の主は、おそろしく利己的、排他的であり、その実、怖がりであって、助けを心の底では欲している。

 小石は――自分はどうなのだろう。小石は、自分を冷静に見つめてみたことがなかったことに、今更ながら気づいた。

「待て!」

 突然、東森が大声を上げる。

「共通点がある!」

「俺達は死にかけていた! や、真南夢さんは解らないけど」

 小石は殺人鬼によって命を狩られそうになっていたし、東森は車にひかれそうになったことがある。

「わ、私は――主の真南夢は……あ、あった! 自動車でひかれて死にかけたことがあった」

「すげえ、俺って冴えてる!」

 東森が、自画自賛する。

「そうか……このことに、主は気づいてなかったのか?」

「あ、今、メール来た!」

 

 今、こっちで新しく仕入れた情報→私達には『死にかけた』っていう共通点がある。そして狭間ではなく現実世界で死ぬと、死にかけた原因によって死ぬ。だから、殺されたり、死んだりすると、身体がばらばらになったり、内蔵を飛び散らかしたりして死ぬ、らしい。

 

「へへへ。じゃあ、俺は全身アザらだけで死ぬってわけか。こりゃ見物だ」

 東森はおどけて言っているが、額には一滴の冷や汗が光っていた。

「死にかけた、か。死にかけた者を集めて、トキは何を企んでいるんだろ」

 

 

 降り立ったところは、京命大学図書館の上だった。幸い、誰からの襲撃にも遭うことはなかった。念のため小石の使者によって部屋の一部をガラスにして周囲を調べてみたが、人影はない。

 部屋を飴細工に修正し、彼らは殻を破る雛鳥のごとく、外へ飛びだした。

 空には、トキによる伝言が記されている。

 

 35歳:9

 15歳:13

 指定区域:京都府

 執行期間:29

 復帰時間まで後:0時間4517

 

 三十五歳は三人消え、十五歳は二人減っていた。三十五歳の三人中二人は、山中と川下だろう。それにしても、復帰時間まで残り五分だったとは。小石は、どっと冷や汗が吹きだすのを感じた。

「ねえ、これからどうする? 十五歳と合流する?」

「合流? 他の十五歳が、どこにいるか解ってるのか?」

 小石が聞くと、

「電話したら解るよ」

 真南夢が携帯を手にし、それを指差す。

 鏡の主達を通じて分身は動かされていて、指定区域に集うたびに連絡を取り合い、分身達は集合する。無論、その中には分身と協力し合っている生身の十五歳も何人かいる、のだそうだ。

 一人一人で戦うよりも、当然のことだが協力し合えば生存率は格段に上がる。

「電話済んだし、早いとこ、ここから降りよ」

 小石が屋根の一部を溶かそうと念じると、レオンは目玉をくりくりと回転させてから、屋根を柔らかな素材へと切り替える。

 溶解した鉄のように、とろりとろりと落ちる屋根だった物質が階下の床に到達した。小石は、それを縄に変えるよう使者に頼んだ。

 一本の縄が完成した。これで、階下へ降りることができる。

 降りようとした、まさにその時だった。どこかで、鼓膜を打ち叩く不愉快な金属音がした。それにともない、人の声もする。

 小石が降りるのを中断し、屋上から下を見ると、図書館前にあるベンチの所で誰かが襲われていた。

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