ガシャポン彼女
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 この好機を逃すな、とばかりに他の二体も自動車に追いつき、宝剣を突き立てる。更に速度が減退した。

「やべえ! 間に合いそうにねえ」

 東森が助手席からの移動を開始する間にも、仏像は果物にフォークを刺すように、さくさくと車体に突き刺した。

 そして、あまった腕を窓に突っ込む。

 後部座席には真南夢と少女がいる。このままでは危ない。

「私も少しくらい戦えるから」

 ミルクが空間に鏡を作りだし、仏像の拳を飲み込む。仏像は何度も拳を打ち込むものの、それは底知れぬ鏡によって全て阻まれた。

 これでは埒が明かない、と仏像は思ったらしく、残りの仏像に援護を求める。三体もの仏像が自由な手によって、リアを徹底的に引っ掻き回す。

 残り一体は足が遅いのか、後方で走り続けているだけで参戦していないのが、せめてもの救いだった。

「きゃっ!」

 真南夢の鏡を現出させることのできる範囲は、大きく見積もっても直径五十センチメートル程度。

 当然、鏡で全ての攻撃を阻むことはできない。

 しかしこの頃には、東森が後部座席に移動し終えていた。

「この甲羅に炎を!」

 東森は、ミルクの光を反射する甲羅に向けて炎を流し込んだ。

「発射!」

 最大限まで面積を引き延ばされている鏡の表面が熱くなったかと思うと、威圧的な炎が射出された。

 仏像の群れに、炎の海が炸裂する。ある者は顔を爛れさせ、またある者は腕を喪失し、またある者は上半身全てを融解させてしまった。

「やったか?」

 小石が、バックミラーで確認する。

 もう仏像が追いかけてくる気配はない。遅れをとって、幸いにも火炎を受けなかった仏像が、恨めしそうにこちらを見ているだけだった。

 ふう、と東森が大きく息を吐いてから、自動車に突き刺さったままの宝剣を抜いて、投げ捨てた。

 

 

 仏像からの追撃の手をどうにか回避し、小石達は空園駅に到着した。

「待って!」

 三十五歳に降伏せず、ここまで来た。

 十五歳達の知恵も借りて、狭間からもうすぐ復帰する。そう、ここまで来れば、後はマンションに行けばいい。なのに、真南夢は自動車を止めろ、と言う。

「なんだ?」

「この子、いえ、三十五歳をどうするの?」

 真南夢が腕の中で、すやすやと眠る少女に目を落とす。

 そうだった。すっかり忘れていた。小石は頭を掻き「この子も連れて行く」とだけ言った。

「あたぼうよ。俺もこの子は、そりゃあもう捕まえるのに一苦労したんだからな」

「無理よ! 十五歳が受け入れてくれるはずないじゃない!」

 真南夢が、語気を強める。

「小石君、それに東森君は、十五歳がどれだけ三十五歳を恨んでいるのか知らないのよ。私達十五歳側は、はっきり言って、三十五歳と戦ってきて優勢だったことは今まで一度たりともないの。だって、大人は常に卑劣でいて姑息で狡猾なことしかしてこなかったから。

 新米の十五歳ならともかく、古株、あるいはここに来てそれなりに殺し合いを経験している人は皆、三十五歳に対して凄まじい恨みを持っているんだよ」

 小石は、思いだした。

 三十五歳でもその武器を放棄し、解り合ってくれる人がいた。この人達は、欺罔しようなど毛頭思っていない。

 なのに、自分は彼らを深く疑ってしまった。少しやりすぎたかもしれない。こう考えていた自分が、飛行機の中にいた。

 しかしながら、それでも小石は甘すぎたのだった。すぐさま山中は、小石達を現実世界で殺そうとした。なんの躊躇いも、彼女からは感じられなかったし、手慣れた雰囲気さえあった。

「確かに、ひどいことをしている奴もいるだろうな。でも俺達十五歳側にだって、そういう奴はいるんじゃないのか?」

「それは……」

 真南夢が、口ごもった。どうやら、図星だったようだ。

「でもどうやって説得するの? 無理だよ」

 真南夢の声は、消え入ると思うくらいに小さかった。

「皆、いや、生き抜くのには手段を選ばない人だっているだろうな。自分のために? いいや、違う。自分のためだけなら、きっとそこまで現金な行動はとれないはずだ。もし、とれているのなら、それはその人が心底恐怖を感じているからだろうな。銃所持者の方が、なぜかしら持ってない人と比べて死亡率が高いのと同じ原理だ。多分俺達も三十五歳も、皆何か現実世界に守りたい奴らがいるんだ。だろ?」

 小石がバックミラーを通して、東森に視線を送ると、

「あ、あたぼうよ……」

と少しばかり遅れた反応を、彼が見せる。しかしそんな奴俺にいたかな、と前言を翻す発言を東森は続けた。

 小石はごほん、と咳払いし、それを打ち消した。

「要するに、お互い様ってことだ。俺だって面倒なことはやりたくない。文化祭も体育祭も、面倒臭い、無駄にうざい、って言って避けてるけど、こればっかりは譲れないな」

 しかしながら、小石も真南夢と同意見なところがあった。どうやれば、十五歳を説得できるのか、という点だ。

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