ガシャポン彼女
トップ バック

 

 35歳:2

 15歳:9

 指定区域:京都府

 執行期間:28

 復帰時間まで後:0時間040

 

 帰りを約束される人間は十名。このままでは、誰か一人が死ぬことになる。

「もう帰りか。ところで森塚さん、メールアドレスを教えてくれないか?」

 森塚は、別にいいでしょ、と断った。現実世界では仕事に忙しく、とてもではないが会っていられる時間はないらしい。それに、彼女は東京都在住とのこと。仕事の合間を縫って京都に来るのは、どうやら無理なようであった。

 

〈現実〉

 

 華美すぎず、地味すぎず、ほどよく明るい花火が夜空を彩っていた。

 俺は、聡美とここで花火をしていたんだ。まるで他人事のように思えてしまう。時間をあれだけおいてから遊びに興じていた自分に戻る、というのはなかなかに難しいものだ。

 しかし、どうしてそんな暗い顔しているの、と聞かれては困る。無理にテンションを引き上げ、笑うと、後から聡美の笑いも追いかけてきた。

 

 

 あれから、ぱたりと狭間への招待状が届かなくなった。不気味な鐘は、それこそ不気味なくらいに鳴り止んでしまったのである。

 いささか引っかかることであったが、戻りたいと思うわけはなく、小石はそのことについて深く考えずに学校での生活を送っていた。

 あれは夢だったんだ。そんなことは非現実的だとは解っていたけれども、自分にそう言い聞かせ、柄にもなく体育祭実行委員に志願したり、サッカー部に入部してみたり、小石は普通の生活を楽しんでいた。

 忘れたかった。忘れていたかった。実際、小石はそういうことにのめり込むことによって、頭の中からあのおぞましい過去を打ち消したかったのである。

 ゆえに、真南夢と一切連絡を取らないでいた。彼女から連絡がくることもなかった。しかし、連絡は全く意外な形で、現実世界で具現化した。それを知ったのは、家族との団欒を交えた夕食の席でのことである。

 ブラウン管に、ある真実が映しだされた。

 

 四十四間堂に、幾人もの人質とともに篭城している殺人鬼であった。テレビでは、気が触れた馬鹿者の犯行、と見ていた。意味不明なことをただひたすら要求していたからだ。

 

 マナムども、ここへ来てみろ。

 

 その人はどこにいるのか――知らない。

 どこに住んでいるのかも知らない人と会いたいのか――そうだ。

 その人と君との関係はなんだ――それは言えない。

 こんな感じのやり取りがなされているのを知れば、気の狂った者の犯行と断定されてしまっても、やむをえないだろう。だが小石達を含める来訪者にとっては、その言葉によってあれが間違いなく危険な存在と認識できた。

 どうやってかは知らないが、殺人鬼はその力を保持したまま現実世界にいた。警察が何度突撃を行おうとしても、なんらかの力によって、次々と斬り殺されてゆく。

 その正体は、斬撃だった。しかしながらそれを知らない人間は、このいかれた人間が正体不明の武器を所有している、ということくらいにしか捉えていなかった。

 

 

 小石と真南夢は、京都駅にあるラーメン屋にいた。大しておいしくないし、値段もやや張るのだが、目的はそれではなかったし、落ち着いて話せる場所があるのならば、それでよかった。

「俺達はここでは、ただの高校生だ。できることは限られている」

「だいたい、なぜあいつはあそこにいるの? 逆巻空間に放り込んで、お陀仏だったんじゃないの?」

 真南夢の疑問が、小石の耳を突く。

 どうして、あの殺人鬼はここにいるのか。しかも、使者の力を保持したまま。

「もしかしたら、私達は早合点していたのかもしれないね」

 真南夢が、ぽつりと言った。

「狭間における時間の流れは、狂っている。来訪者である限り、私達が歳を取らないってことも、それを物語っているしね。でさ逆巻空間は、そうした時間の乱れ、時間の歪だ、と思ってたけど――」

 違うのか、と小石が聞くと、ううん、と真南夢は頭を振った。

「正解。けど、あれを殺人鬼抹殺のために利用すべきではなかったのよ。あの逆巻空間も、時間が絡んでいる。多分、あそこに入れば、いずれかの時点に戻ってしまうのよ」

「それって、まさか……」

「そのまさか、ね。逆巻空間に入って、あいつはたまたま、私達のいる現実世界という時点に来てしまった。昨日は時間進行日だったから、あいつの入った逆巻空間は過去に戻る性質を持っていたみたいね」

「いや、しかしもしかしたら逆巻空間というものは、そこに入れば必ずここに戻るものなのかもしれないだろ?」

 小石がふと思ったことを口にすると、真南夢が、うーん、と唸った。

「以前、あそこに三十五歳の死体を放り込んだことがあるけど、何も起きなかったし」

トップ バック ネットランキングへ投票(月一回)
Newvelに投票
web拍手
inserted by FC2 system