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二本による斬撃の射出速度は、実に凄まじいものがあった。単純計算だと二倍の速度。今まで優勢だった真南夢二人組みは一気に押し返され、背後の壁に叩きつけられていた。 斬撃をまともにもらった二人は吐血し、その場に崩れ落ちる。 まずい。 残るは、小石一人しかいない。 しかも、敵は二刀流に切り替えていた。力こそ元のままだが、斬撃は二倍化されている。とてもではないが、小石一人では歯が立たない。 そもそも鏡と刀二本では、使者最大保有数の二という数字を越えているではないか。小石は訝ったが、大方鏡との契約を破棄しているのだろう、とすぐに得心した。 「ああ……」 どうすればいいのか解らない。 頭にちらつくのは墓ばかり。 やりたくなかったが、最終手段だ。小石は、ポケットに入れてある二本のダイナマイトに手を伸ばした。 自爆してやる。 決意を固めた時、目の前を白い何かが走った。視界が瓦解する。何が起こったのか。 「危ないものを持っているな」 小石は、その言葉で自分に何が起きたかを理解できた。ダイナマイトを手にしたところを、斬撃によって狙われたのだ。ダイナマイトは、きれいに分断されてしまった。もはや、為す術なしだ。 「待って! 彼らを殺さないで!」 ふいに声がした。耳を優しくくすぐるその声には聞き覚えがあった。聡美である。彼女が、奥にある洒落た喫茶店から現れたのだ。エレベーター前から、最も離れている場所である。あそこに隠れていたらしい。 「聡美! どうして? どうしてここに?」 それには答えず、彼女は言葉を続けた。 「あなたが彼らを殺したら、私は狭間を殺す」 狭間を殺す? 大層いいことだ。あそこには二度と戻りたくない。だが、殺人鬼は違うようだった。 「俺から狩猟場を奪うと? だが、どうやって? ふん、まあいい。邪魔になる可能性があれば、排除すればいい。喜びをもって、な」 殺人鬼が、彼女へと一歩、一歩接近する。駄目だ、逃げろ! 聡美! お前が死んじゃ、駄目だ! お前はもっと生きろ! 小石は出せる限りの大声で、叫んだ。聡美は、自分より大事だ。その彼女に何かしてみろ、お前を殺してやる。殺人鬼を、そう罵ってみた。 だが、彼は気にも留めず、ゆっくりと彼女へ歩み寄っている。 「私は、あなたに勝てるから」 「ほう? どうやって?」 「これよ!」 彼女が手にしているのは、あのダイナマイトだった。 「それにほら、ここにも」 彼女が、身体に数十本のダイナマイトを巻きつけているのを見せる。 小石の口から、母音がこぼれた。 「ごめん、あの時私が先に作っちゃったの。多分、小石が作ったのよりずっとずっと強力!」 てへへへ、と笑っていたが、それは明らかに作り笑いであった。彼女のダイナマイトを握る手が、小さく震えている。 「ダイナマイト、か。ライターでもあるのか?」 「あるけど、使わない」 即答だった。 殺人鬼は、口の中で笑っている。見ていて不愉快になるような笑いであった。 「ライターのないダイナマイトなど、牙のない猛獣に等しい」 殺人鬼は、彼女の首筋に刀を向けた。 「だってあなたなら、さっきヨッシーにしたみたいに、ダイナマイトを私の手から一瞬で奪い取ることができるよね?」 「確かに。利口なお嬢ちゃんだ。しかしライターを使わなければ、それこそ全くの無意味」 「ねえ、皆、離れていてくれない?」 聡美が、ふっと笑む。真剣さを、小石はそこに見た。 「や、止めろ!」 小石は殺人鬼を食い止めようとしたが、いかんせん足が思うように動いてくれない。 「ねえ、伏せてったら! あ、後、使者も引っ込めておいて! 使者が死んだら、主も死ぬんだから」 南野が耳を塞ぎながら、伏せの姿勢に入っていた。 ダイジャンも封印している。真南夢とその分身は、すでに地面に倒れこんでいるので、伏せている状態といえた。 聡美が、携帯電話を取りだした。 「どこへかける?」 「うん、百十番」 殺人鬼が顔をしかめる。 「好きなだけ話せばいい。だが、それが終われば――」 「解ってる、あ、もしもし、私、はい、聡美です。庄戸タワーの占拠者達はいい人ばかりです。だから、逮捕しないでください。悪いのは殺人鬼だけです。他は誰も悪くないです。それからですね、狭間とかトキを潰さないと、こういうことがこれからも起きるかもしれません。あれは、最悪な世界です」 息つく間もなく、まくし立ててから、聡美は電話を切った。 「戯言もここまで。死ぬがいい」 殺人鬼は聡美の首筋にあてがっていた刀を引き、胸に突き刺そうとし――なんと、聡美自らが、進んで突き刺さりにいった。 「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
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