ガシャポン彼女
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 聡美の身体に宿る生の炎は刹那だけ激しく燃え、それからぷつり、と途切れるようにして消えた。

 なのに、聡美の身体が燃え盛る。

「な、なんだ? なんだこれは?」

 彼女の手に握られているダイナマイトが、全身に巻きつけられている爆発物が、役目を果たすべく酸素と熱を受け取った。

 見境のない一方的な攻撃であった。殺人鬼はもちろんのこと、小石や南野、真南夢とその分身も余波を受けた。

 熱い。熱い。熱くてたまらない。

 怒り狂った爆撃が、吠え猛る。

 加虐的性質を持つ爆発の波が、殺人鬼を飲みつくす。凄惨としか言いようがなかった。

 伏せていなかった小石は、衝撃波によって後方へと吹き飛ばされた。

 身体中が、痛みで満たされる。それとは逆に、心の中は空白だった。時が秒を刻むたびに、聡美の死を悲しむ色が彼を侵す。

 目を開けると、瓦礫の中だった。辺りにあった物や庄戸タワーの一部などが、小石の上に積まれている。

 レオンは? レオンがいない。ああ、そうか、そういえば、聡美の忠告に従って使者を封じ込めていたのだ。ポケットに手をやると、携帯ゲーム機は割れていた。

 瓦礫を払いのけ、小石は外に出た。

「まだ生きて、やがる……」

 殺人鬼の身体を銀色が覆っていた。鏡だ。あれを使って、あの爆撃を吸収したのだろう。

「これを受けて、お前達は死ぬだろう」

 殺人鬼が身体から鏡を剥離させ、空間に円盤型の鏡を形成した。そこから、やや劣化した爆撃が雄叫びを上げた。

 使者がいない今、何もできない。あいつには勝てない。敗北感が広がる。

 しかし、共鳴する感覚を覚えた。なんだろう。これは一体なんだろう。俺は何と共鳴しているのだ。疑問に思ったが、すぐに彼は明確に理解した。

 俺は自分と共鳴しているんだ。

 主は、魂合物とは愛を受けた物、と言っていた。そうか、俺も皆から愛されていたのだ。しかしなぜ、今更になってから共鳴したのだろう。

 主達全員、やたらと外に力を求め、自分に目を向けることがなかったからなのかもしれない。

 今の小石は、頼れるのが自分だけ。そんな状況になって、『自分という使者』が、ようやく開眼したにちがいない。小石の身体が、眩い光で包まれた。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 身体に爆発的なエネルギーを感じる。少しでも使わないでいると、髪の毛や肌から抜け出てしまう勢いである。

 両腕で爆発の津波を受け止め、砕いた。掌が痺れたけれども、どうということはない。皆の受けた苦しみに比べれば、痛くもなんともない。

「な、なんだ?」

 殺人鬼が後退った。顔には焦燥と驚愕が見てとれる。

「俺は――俺は、自分と共鳴したんだ!」

 足に力をこめ地を蹴ると、殺人鬼はもう目の前だった。あまりに速すぎて、小石自身、対応するのが困難だった。

「くらえっ!」

 殺人鬼の顔面へ、拳による痛烈な一撃を叩き込む。骨の折れる感触が、拳に伝わった。そのまま振り抜き、続けて、何度も打ち込んだ。

「こ、こんなはずが……」

 殺人鬼がよろめきながら、顔を手で覆う。

「お、俺も、俺も自分と共鳴してやるぞおおおおおおおおおお!」

 刀を捨て、殺人鬼が喚いた。

 と、すぐに敵の身体も光輝に覆われた。それを見て、殺人鬼が嬉しそうに笑った。

「だから、なんだ」

 小石には、絶対的な自信があった。

「俺とお前では、受けた愛、希望の量が桁違いだ!」

 殺人鬼の拳が飛んでくる。閃光のように鋭い一撃。

 しかし小石からしてみれば、緩慢以外の何物でもなかった。

 容易くそれを受け止め、残りの手で、殺人鬼の胸へ過剰なエネルギーを注入した。

 温かくて湿った感触があった。小石の腕は、殺人鬼の胸を貫いたのだ。

 引き抜く。

 殺人鬼は、どさりとその場に倒れ込んだ。狩猟者と獲物の立場が、逆転した瞬間だった。

「お前は、強かった。しかし、誰からも愛されなかった」

 はははは。力なく笑ってから、小石も崩れるようにして倒れ、そして意識を失った。

 

〈狭間の裏側〉

 

「起きなさい」

 

 聞いたことのない声がした。誰なのか。知らない。誰だっていい。聡美を失った今、どうやって生きていけばいいのだ。

 この時になってようやく、彼は気づいた。聡美が自分を欲しているのではなく、自分が聡美を欲している、と。

 

「起きなさい」

 

 誰かが小石の頬を叩く。

 とめどなく流れる涙を拭って、前を見ると、不可解な生物が小石を見下ろしていた。

「誰だ? それに、ここはどこだ?」

 庄戸タワーでないことは明白だった。青と黒の絵の具が、練りまわされているような風景。どこかの部屋でも外でもないここでは、長短の針がゆるりゆるりとさすらっていた。

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