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部屋に戻る時、彼女は誰かしらに携帯電話で連絡をとっていた。それを見て、小石は他にも人がいるのか、と安心した。 部屋に着くと、早速、小石は東森を起こした。 「ああ、あ? お! やっとこさ、他の人間を見つけてくれたか。あ、しかも精霊さんもいるじゃねえか」 「汚い口の聞き方ねー」 彼女が言うと、亀モドキもそれに続く。次に、東森の胸を抉られたような呻き声も。 「お、お、女の子に言われると、かなり傷つくな」 と言いつつ、ヒヒヒヒ、とまた品のない笑いを盛大にかましてくれる。 あまりにしつこい笑い方だったので、小石が東森の頭をぺしりとやって、停止させた。 「教えてくれ。この世界がどういうものか」 「いいよ、えーっとね――」 鐘を打ち鳴らす音が反響した。どろどろとした不吉なその音は、やけにくっきりと聞こえる。まるで頭の内側から奏でられている、と錯覚するくらいに。 これは何だ。 質問しようと小石は口を開いたがしかし、その時には静かだった水の音が洪水のようになり、何も聞こえなくなっていた。次第に視野にも点々が打たれ始め、視覚が完全に妨害された。 ※ 彼女の顔がちらつく、気がする。 今すぐ、この世界に関する全てを教えてもらえるのだ。 なあ東森、と小石は聞こうとして横を向こうとした。しかし、風景がない。その上、頭が妙に鈍い。ここはどこなのか。目を開けてみる。 いつもと変わらぬベッドの上だった。スイートホテルの、ということはなく、自室の、である。 慌てて起き上がり、小石はまず自分の手を見てみる。大丈夫だった。それは明らかに十五歳の手で、年季物のそれではない。あれは夢だったか。いやはや、なんとも長い悪夢だった。 目を荒っぽく擦り、大きく伸びをしてから、小石はテレビをつけてみた。そこには、大火事が発生したことが報じられている。場所が映しだされた。 「あそこね、えーっと、どこだっけかな……ああ、そうそう、あそこだ!」 答えを導きだすと、小石の心臓が大きく脈打った。テレビに映っている場所は、東森の兎モドキが火炎放射したところである。 そういえば最近のニュースで、よくあの辺り一帯で放火があった、と報じられていた。事情を知らなかったかつての小石ならば、放火の一つや二つどうってことない、で済ましていただろう。 「たまたまこのニュースを見て、俺は良かった、のか? それとも悪かったのか」 爽快な朝を迎えるかと思いきや、彼の胸には大きなわだかまりができてしまった。複数の奇怪が織り込まれた世界。不屈の精神すらも潰す空間だ、と痛感していた。しかし生きていれば一度や二度、こういう偶然があってもおかしくない。 いや、そう信じたい。信じたい。彼は何度も心の中でそう唱えた。なのに、あれは真実だ、という声がひっきりなしに頭蓋骨の内側で頑強に反響する。 「早く降りてきなさい!」 階下から母の声がした。小石は考えを中断させ、ひとまず朝食をとりに一階へと向かった。 放課後、小石は屋上に行ってみた。そこは静かで、風も心地よい。何かを考えるには、最適な場所である。 彼は、頭を回転させてみた。だが、抽象的でつかみ所のなさそうな現象の解明は全く進まない。 疑問ばかりが来る、かなり。 「小石君だよね? あなたの疑問を解決してあげよっか?」 いきなり背後から声をかけられて、小石はびくりとした。誰だろうか。振り返ってみると―― 「誰?」 名前はおろか、見たこともない少女が立っている。ざっくりと切った感のある短髪、目には人のことを面白がっているような、ちょっと意地悪な光がちらりと見える。手足は平均的な女子と比べると、かなり細い。運動をやっているとしたら、マラソンなのかもしれない。 「私? あなたと一度会っていると思うんだけど? だって、あなた小石君なんだよね?」 「あ……ああ……そうだけど……」 まずい。小石は、思考内部を必死になって掘り進めた。相手が誰であるかを忘れるほど、痛々しいものはない。 「えーっと、名前なんだっけ?」 「大西真南夢。覚えてないの?」 少し悲しげな顔をしてくる。 「いやいや、違うって。名前だから、下の方さ。下の名前を聞いただけさ」 名前聞きだし作戦を実行に移してみたものの、相手はそれに気づいているらしい。虚しいような、寂しいような、なんともいえない表情を浮かべる。 「や、本当だって!」 懸命に弁明すると、真南夢がくすり、と笑った。 「へ?」 「うん、まあ、私ら会ったの初めてだからね」 数秒の沈黙の後、 「え?」
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